朱の悪魔×お嬢様
「…ただいま」

 誰もいない部屋に向かってボソリと一応言ってから入る。

 美玖に家族はいない。強いて言えば祖母がたった1人の家族だ。

 両親は小さい頃に交通事故で亡くなり、それから祖母と一緒に『本家』に住んでいた。

 が、去年美玖が“ある事”を破ってしまい『本家』を追い出されてしまったのだ。

 必然的に1人暮らしとなるわけだが、中学生がマンションに1人で住めるわけもなく、マンションには祖母との二人暮らしとなっていた。

 祖母を見かけないと言われれば“祖母は身体が弱いので全く外に出ない”と言えば疑われなかったし、一応引越しを何回かして美玖はマンションを点々とわたっていた。

 今回のマンションは1人暮らしには広すぎる。

 キッチンやトイレ、お風呂、洗面台は勿論だが、それにプラスして和室、リビング、部屋が二つもあった。

 荷物の少ない美玖には余計に広く感じてしまう。

 美玖の部屋は玄関から一番近い部屋で、入るとベッドに鞄を投げ出して着替え始めた。

 制服を脱ぎ、適当な服を選んで着る。

 美玖は基本的にシンプルなデザインが好きだ。

 今日の服は白いタートルセーターに赤いリボンがついた黒のカーディガン、ジーンズ生地のスカート。

 着替えている時、胸元でキラリと金属物が光った。銀色の十字架のネックレスだ。

 『本家』を追い出された日から片時も手放さなかった、美玖にとって自我を保つ為の『お守り』である。

 時間をかけずに着替えを終えると、床に放り出されていた白い鞄を取り上げ、必要最低限の荷物を入れて家を出た。
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