猫の初恋
「建物が傷んでる、壊れてきたら危ないから」

「そっか」

一条くんに止められたからあきらめた。

猫の興味がそそられる要素はたしかにあるけど、こんなとこに入りたいなんて女子は変わり者と思われちゃったかな。

「それよりしばらく休憩しよう。あいつらがいなくなるまでここでおとなしく待つしかない」

「うんそうだね」

「あのさ」

そこで彼は気まずそうに私を見て身じろぎした。

「あっごめん」

おもいきり、彼の腕に抱き着いていたから慌てて離れるけど……なんだか恥ずかしい。

さっきだって走りながら手を繋いでいたし。

「ところでさ」

私がいたたまれない気持ちでうつむいていると、彼は話題を変えようとしてくれた。

「う、うん」

「さっきの猫宮ちょっとかっこよかったな」

「え……そ、そうかな」

「ジャンプ力が半端ねえよ、あれじゃあまるで……」

「ん?」

「いや、まさかな」

彼は自嘲気味に笑ってその場にドカッと座り込んだから、私も隣にしゃがんだ。

さっき2人で登った壁に背中をもたれて、そっと彼を見上げた。
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