猫の初恋
「でも、もっと遠慮せずにさっきみたいにいつも強気でいろよ」

「……」

それって、もしかしたら学校での私のことを言ってるのかな。

確かにいつも隅っこで猫をかぶって小さくなってるけど。

でもそれはもう体に染みついた私の習性みたいなものだからすぐには変えられっこないよ。

「そんな顔するなよ、いざとなれば俺が守ってやるから」

そう言って彼は私に手を伸ばしてきたので、ドキドキしながら目をつぶると頭を優しく撫でられて。

そのまま長い髪をたどって顔の輪郭をなぞられた。

「いちじょうくん」

私の心を甘やかすこの感触、ちゃんと覚えてる。猫の私を撫でてくれた時とそっくり同じ。

「猫宮……俺、おまえのことずっと見ていたくなる。どうしてかな」

「……」

「自分でもわからない」

私の方こそ、今だって彼の端正な顔から目を逸らせない。

すると……。

この場の雰囲気に似つかわしくないおどろおどろしい声があたりに響き渡る。

「ブニャーッゴウ」

え?今の何?私の鳴き声じゃないよ。

きょろきょろあたりを見回すと、廃屋の一軒家の軒下からガサゴソと音がした。

「ひいっ」

不気味な気配を本能で感じてまたもや一条くんの腕にすがりつく。

「ブニニー」

「キャアッ」

軒下から飛び出してきた茶色い物体は私と一条くんの間にドスンと音を立てて着地した。
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