猫の初恋
「お願い、猫宮さん私と変わって」

両手を前に合わせて懇願されてしまった。

「猫宮さんさっきはごめん。もうあんなこと絶対に言わないから今回はお願いします」

さっき私のことを恨めしそうに睨んでいたのに手のひらを返したようにしおらしくなってる。

「もう、まどかは……」

花音ちゃんは呆れ顔でため息をついた。

そっか、佐伯さんは一条くんのことがよっぽど好きなんだ。

よくも悪くもこんなになりふり構わず行動に移せるんだから。

私とは全然違う。

私はこんなふうに積極的に人と関われない。

誰かの特別になりたいって思えることが羨ましいよ。

母からの言いつけがあるからだけじゃない。

いつのまにか、最初から諦めて人に期待しないでやり過ごす癖が染み付いてしまってるから。

まして、憑依タイプのあやかしの力を持っているかもしれないんだもん。

友達をつくりたいなんて期待しちゃいけないんだ。

この教室は人間同士が友情を育む空間で、所詮猫は部外者。

秘密だらけの私なんて、偽りの関係しか築けないし最初から築いちゃいけない。

「あ、あの私」
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