猫の初恋
「俺あいつとやりあいたくねー、めちゃくちゃ強いし」

「だよなー」

かすかな声は拾えたけれどその内容に戦慄した。

私を餌に一条くんをおびき寄せるだけでも卑劣なのに、20人で寄ってたかって袋叩きにするつもり?

なんてひどいことを思いつくんだろう。

こんなの絶対に許せないよ。

「誰か、開けてーだれかー」

手が痛くなるくらい叩いたけれど、誰も気が付いてくれない。

よく考えてみたら今日は部活もない一斉下校の水曜日。

部活がないと体育館にすら誰も寄り付かないみたいで、近くに人の気配を感じなかった。

こうなったら自力でここを抜け出すしかない。

体育館倉庫の中を見回すと、高い位置に窓はあるけどそこまでは届かないし鍵がかかっていて出れそうにない。

「あ」

さっきまで叩いていた扉と扉の間に小さな隙間を見つけた。

よし、これしかない。
この方法しか思いつかない。

人の姿の私はその狭い隙間を通ることは不可能だけど、白猫のバニラならなんとか身をよじって抜け出せそうな大きさだ。
< 131 / 160 >

この作品をシェア

pagetop