猫の初恋
なにしろ、普通の子猫よりも小さくてネズミくらいのサイズだから。

やるしかない。できるかどうかなんてわからないけど、一条くんを助けるためならなんだって試してみる価値はある。

胸の前で、手を組みあわせてゆっくり深呼吸。

そして思い浮かべた。

一条くんのことを。

初めて言葉を交わした彼は不愛想で怖い不良だった。

『え、一条くん?』

『誰だ、おまえ』

『わ、私猫宮すずです。一カ月前に転校してきた』

体調を崩した私を保健室に連れて行ってくれた。

お姫様抱っこにドキドキした私は子猫に変身。

あの時、一条くんだったから私、胸の鼓動が抑えられなかったんだよ。

子猫になった私を助けてくれたのも彼。

そこで、優しくて意外な一面を知った。

彼は猫の私には、無防備な笑顔をむけてくれて。

全部覚えてる、キミの声、匂い、ぬくもり。

彼を心の中で思い浮かべるだけで心臓が早鐘を打つ。

もう少しだ。もっともっと自分の気持ちに向き合うんだ。

そうすることで、私の意志で猫に変身できるかもしれない。

『猫宮、一緒に帰ろう』
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