猫の初恋
その時、宙に舞う私の落下地点に素早く滑り込んできてくれた一条くん。

すんでのところで、彼の両手にキャッチしてもらいなんとか助かった。

「ミャウー」

ありがとう、一条くん。

彼の唇の端は青紫に変色していて左目は少し腫れている。

何よりこめかみから血が滴り落ちてきていてひどい怪我だ。

彼の手の平にも血がついていて、痛々しくて胸が締め付けられた。

だけど、彼は無理に笑ってこう言った。

「バニラおまえ、どうしてここにいるんだ?」

「ニャア」

「そうか、お前がここにいるってことは猫宮は無事ってことだよな」

優しく私の頭を撫でながら、よかったって呟く彼。

「猫宮、早くここから逃げろ」

彼は真剣な口調でそう言った。

そんな……一条くんは私の正体を知っていたってこと?

知ってて、黙って見守ってくれてたの?

「早くいけ、ここは俺が何とかする。猫宮さえ無事ならどうにでもなるから」

「ニャアニャア」

駄目、またこの前みたいに一緒に逃げようよ。

彼は私を取り返すために、一方的に傷つけられても耐えていたんだ。

こんな状態の一条くんを置いていくわけにはいかない。

身振り手振りで必死で説明したけど、彼は首を横に振る。

「ネズミ、この野郎っ」
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