猫の初恋
その時一条くんの背後から鬼の形相をした番長が木刀を振り上げた。

危ないっ。やめて。

その光景はまるでスローモーションのようにゆっくりと流れた。

私を庇うように身を屈める一条くん。

私はそんな彼をよそに頭のてっぺんから足のつま先まで毛を逆立たせた。

「ンギーッ」

そして番長の顔目掛けてジャンプした。

もうこれ以上、一条くんを傷つけるなら容赦しない。

激しい憎しみと怒りに支配されて、我を忘れていたかもしれない。

「ギーーー」

番長の顔に爪を突き立てた瞬間、なぜかその手は空を切った。

一瞬思考が途切れて目の前が真っ暗に。

その時、想像もしなかった事が起きていたけどすぐには理解が追いつかなかった。

目をあけると、こちらを振り返る一条くんが苦痛に顔を歪めながら呟く。

「バニラ、バニラはどこに行った?」

一条くん、何を言ってるの?私はちゃんとここにいるじゃない。

彼が立ちあがろうとして、フラッとよろけたから急いで駆け寄って支えようとした。
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