猫の初恋
「大丈夫?一条くん。ひどい怪我」

左手で彼を支えて声をかけた。

「……」

だけど、彼は殺気だった目をしてその手を振り払った。

「離せよ、おまえバニラを食っちまったんじゃないだろうな?」

「へ?」

「バニラを返せ。吐き出せよ」

「一条く……ん」

そこでようやく違和感に気がついた。

猫の姿だったはずの私はいつのまにか2本の足で地面に立ち……そして一条くんとほぼ同じくらいの高さに目線がある。

自分の手には木刀が握られていたから、思わず地面に落とした。

顔に触るとゴツゴツしていて汗ばんでいる。

私は私じゃない。

そうだ、間違いない。ある結論に至りごくりと喉を鳴らす。

うそ、こんなことって……。

私は番長になっていた、いや正確に言うと番長の体に取り憑いてしまっていた。

どうしょう、こんなの嫌だよ。

「番長さん、どうしたんすか?なんか内股になってますが」

後ろに控えていた彼の部下の1人がおそるおそる話しかけてきた。

「さっきの猫、いなくなったけど食いました?」

「食べるわけないでしょっ」
< 139 / 160 >

この作品をシェア

pagetop