猫の初恋
一刻も早く一条くんの怪我の手当てをしてあげたい。

そのために、今のこの状況を最大限利用する。

泣き言なんて言ってる場合じゃない。

そうだよ、まだ私のやるべきことは終わりじゃない。

泣いてたって仕方がないよ。

落ちそうな心を奮い立たせて、そこにいた番長の部下達に告げた。

精一杯、番長らしい話し方で。

「お、おまえら金輪際、一条くんに酷いことをするんじゃないぞ」

部下たちは顔を見合わせて困惑している。

「いや、番長さんが1番怒り狂ってたんじゃないすか。俺らはどうでも……」

「う、うるさいうるさい。おまえらも俺を止めなかったんだから同罪なんだよ。
いいか、2度と一条くんには近寄らないと誓え、わかったか」

「はあ」

「そして、今度俺が同じことをしようとしたら殴ってでも止めろよ」

「は、はい」

「声が小さいぞ」

「はいっ」

「もしも、この誓いを破るようなことがあればおまえら全員……」

そう言ってニヤリと不適な笑みを浮かべた。

部下たちは後ずさろうとする。

その時、廃屋の軒下からゴゴゴっと大きくうねるような音がした。
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