猫の初恋
よかった、来てくれた。

「おまえら全員を祟ってやるからなー」

私が大きな声でそう叫んだ瞬間、軒下にうごめいていた物体が一斉に解き放たれた。

「グゥルル」

「ガオッ」

地を揺らさんばかりの唸り声をあげて、鮮やかな金色の毛皮を身にまとった凶暴な獣たちが姿をあらわした。

獣たちの目は燃えるように赤く鋭い牙は妖しく光る。

「ひいっ」

「虎だ、虎がなんで?」

「た、助けて」

「誓う、なんでも誓う」

20人いた部下達は腰を抜かしたり、一目散に逃げ出したり収拾がつかない。

「ガウウッ」

虎たちは逃げまどう番長の部下達に容赦なく襲いかかった。

「ワー逃げろー」

パニックになりながら全員逃げていき、哀れな悲鳴も遠ざかっていった。

ちょっと、やりすぎたかな。

だけどあの虎たちは、本物じゃないってことを私は知っている。

すべて幻影、つまりまぼろしを見せていただけ。

実際にはかすり傷ひとつつけれないけど、脅しには充分だ。

「すずー」

一条くんの前だということも忘れてるのか、茶トラ柄の猫耳と尻尾がでた半人半猫の姿で歩み寄ってきた兄。

「お兄、来てくれたんだね」
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