猫の初恋
兄には番長が私だってことがわかるみたいだ。

「ここは俺の散歩コースなんだよ。それよりおまえちゃんと元に戻れるんだろうな?」

兄は焦った様子で尋ねてきた。

「わからない、でももういい」

役目は果たせたような気がして、一気に力が抜けてその場にヘナヘナと座り込む。

戻り方なんて知らない。

どうしたんだろう、ホッとしたら気がぬけて意識がボンヤリしてきた。

一条くんの方を見れば、顔面蒼白。

さっき虎が去って行った方をぼんやり見つめている。

「一条くん……」

ごめんね、怖い思いさせて、ごめんなさい。

こんな私でごめんなさい。

友達になってくれて、嬉しかったのに。

やっぱり、化け猫と人間とはずっと一緒にはいられないよね。

私たちの住む世界は永遠に交われない。

そんなの初めからわかっていたはずなのに、私は……。

「すずっ、しっかりしろ。意識を保て。こいつに乗っとられる」

兄が泣きながら何か叫んでる。

だけど、もはや言葉の意味も理解できない。

「ダメだ、消えるな。俺を見ろっ、目をつぶるな」

私はそれをどこか遠い出来事のように眺めていた。
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