猫の初恋
パァーッと笑って、彼の胸にほおずりした。

「あ、いや、だから」

一条くんは困ったように笑って目線を泳がせた。
 
「ミャー」

はあ、一条くんの匂いだ。落ち着くなぁ。ずっとこうしていたい。

「猫宮、やっぱ俺ちょっと恥ずかしいかも」

「ん?どうして?」

あれ?なにかがおかしい、、、かも。

今の私は猫耳と尻尾がでているけど人の姿だから猫宮すずであって、猫のバニラじゃない。

そうだ、さっきのような白猫の姿じゃない。

だったら、こんな風に一条くんに自分からくっついていくのなんて……いくらなんでも。

「……」

ようやくこの状況を客観的に見られるくらいに意識をとりもどしてきた。

私ったらなんてことを……。

すると、サーっと血の気が引いていく。

「きゃっっ、ごめんなさいっ」

今さっきの自分の行動が恥ずかしくて、顔が熱くなった。

そそくさと、彼の膝から降りて母の後ろに隠れた。

「まあまあ、意外に自我を取り戻すのが早かったわね」

母はホッとしたように息を吐いた。

「すず、やっと正気に戻ったか。見てるこっちが恥ずかしかったぞ」

兄はゲンナリしながらそう言った。

「うー、恥ずかしい、ごめんなさい一条くん」

全力で謝る私に、彼は優しく笑いかけてくれた。

「いや、いいよ」

「さっきのことは忘れてください」

「大丈夫、忘れるからそんなに謝るなよ。それより無事でよかった、安心したよ」
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