猫の初恋
彼はこれ以上私に気を使わせまいとしてか、なんでもないようにそう言ってくれた。

「ありがとう、助けてくれて」

「助けてもらったのは俺の方。それより猫宮をまた危険な目に合わせてしまったよな、ごめん」

「ううん、ううん」

彼が辛そうに目を伏せるから、また飛びつきたくなったけど、必死で我慢した。

「そんなに自分を責めないで。一条くんだってそんなにボロボロになって……あれ?」

彼の顔はさっき見た時よりも怪我が少ないように見えて首を捻った。

小さい傷はあるものの唇の端も切れてないし目のまわりも腫れていない。

額から血が流れていたはずが、それもない。

どうしてなんだろうと疑問に思っていたら、すぐに兄が種明かしをしてくれた。

「すず、母さんがさっき治癒の力を施してくれたんだ。だから怪我がさっきよりずっとマシだろ?」

「えっそうだったの?お母さんありがとう」

まさか母があやかしの力を人間に使ってくれているなんて思いもよらなかった。
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