猫の初恋
そっか、だから母は一条くんのおじいさんのお仏壇の前であんなに悲しそうに鳴いていたのか。

妊娠していた母を助けてくれたってことは私にとっても命の恩人。

「猫宮のお母さん、お願いがあります」

一条くんが母に真剣な眼差しを向ける。

「じいちゃんは死ぬまで自分の家族にもあなたたちのことは言いませんでした。俺も絶対に秘密は守ります。
だから、引っ越したりしないで安心してこの街にいてください」

私はそこでようやくある事を思い出した。

そうだ、人に正体がバレたらいかなる理由があってもその地を去らなくてはいけない。

一条くんは私たちの事情を察して、先回りして伝えてくれているんだ。

私がこれまで転校を繰り返している理由に気がついたのかな。

「……」

だけど、母はすぐには返事をしなかった。

代わりに兄が口を開く。

「一条、そう言ってくれるのはありがたいけど、俺たちには守らないといけない掟があるんだ」
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