猫の初恋
真摯な瞳で病院の方を見てから、私に向き直る彼。

「俺、将来はじいちゃんみたいな獣医になりたい。それでこの病院を継ぎたいんだ」

「うん、うん、素敵な夢だと思う」

犬や猫への愛情深い彼にはぴったりなまさに天職のような気がした。

「ありがとうな」

「どうして?」

「家族にもまだ言えなかった。こんなこと言ったらきっと反対されるに決まってるって思ったし自信もなかったから。
でも、俺決めたよ。正々堂々、家族に話してみる」

「私、応援するよ」

「猫宮と一緒に頑張るために俺ももっと強くなりたいから」

「一条くん」

「猫宮、一年だけじゃなくずっと俺のそばにいろよ」

「わっ、私もそうしたい」

「じゃあ、約束な」

そう言って彼の手が私の頬に触れる。

見つめあったままゆっくりと近づく一条くんの顔。

あ、あ、どうしよう。嬉しい、嬉しいけど困る。

ドキンッて胸の奥が跳ね上がる。

だって、顔と顔が至近距離で唇がもう少しで触れ合いそう。

田舎町だし人通りが少ないとはいえ、道の真ん中で恥ずかしい。それにもっと重要なことは。

「あ、あの一条くん待って」

「待てないけど、嫌?」

ちょっぴり不満げに瞳を揺らす彼。

「嫌ではなくて、ドキドキしすぎるとまた……ここだとちょっと」

「ふーん、そうなんだ」
< 159 / 160 >

この作品をシェア

pagetop