猫の初恋
「さあ、それは……。本人に聞いてみないと」

花音ちゃんは困ったように眉を下げる。

償うために彼女になるって、話が飛躍しすぎている気がするけど、佐伯さんは一条くんにすっかりお熱をあげているみたい。

ただでさえ、イケメンなのに危ないところを助けられたら王子様みたいに思っちゃっても仕方がないか。

「あ、きたきた」

すると、噂の一条くんが教室の後ろ扉から入ってきた。

そしてなんと廊下には他のクラスの女子生徒達数名が彼をこっそり覗き見に来ている。

やっぱり、凄くモテるんだな。

「一条くん、おはよー」

語尾にハートマークがついていそうな猫撫で声で、佐伯さんは一条くんにすかさず走り寄っていく。

私の机から一つあけた隣の席の椅子に腰をおろした彼は、佐伯さんには興味なさげに頬杖をついた。

「一条くん、私今日お弁当作ってきたの、一緒に食べよう」

「いらね」

「じゃあ、放課後一緒に帰ろうよー」

「無理」
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