猫の初恋
能面のような顔で謝ってぺこりと頭を下げた。

「な、なによ。素直に謝っちゃって」
 
私が頭を下げたまま微動だにしないから、彼女は焦ってるみたい。

いつもこうやってクラスメイトと自分との間に線を引く。

本気でぶつかっていくことなんて決してしない。

感情を昂らせないために人とは深く関わらない。

「わかったならもういいわよ、今度からは気をつけてね」

思ったよりも早く解放してもらえそうだったからホッとした。

「うん」

ようやく顔を上げたところで背後がザワザワとうるさくなったので振り返った。

「やあやあ、2年生諸君、おはよーさん」

満面の笑顔をふりまきながら現れたのは……。

「お兄……」

またきたんだ。
私は思わず呆れてため息がもれた。

「キャ、猫宮先輩おはようございます」

「おはよー、ともちゃん今日も可愛いね」

「やだー、先輩ったら」

「あれ、エミちゃん髪切った?」 

「うん、ちょっとだけ」

廊下にいた女子達に調子良く話しかける兄。
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