猫の初恋
まだ鼻に劇物みたいな匂いがこびりついていて気持ちが悪くて、頭もクラクラする。

ああ、やっぱり人間にまぎれて暮らすのって猫にとっては大変だ。 

壁に手をついて、息を整えていたけれど一向によくならない。

そうだ、こんな時は中庭の綺麗な空気を吸いにいこう。

あそこは緑がいっぱいあって落ち着くから。

雨が降っているけど、いっそ体にこびりついたスパイスを洗い流せていいかも。

この匂いから逃れられるならびしょ濡れになった方がマシ。

壁に手をつきよろめきながら、中庭を目指したけど、いきなり視界が真っ白に。

どうしょう、意識が朦朧として。

誰か助けて、助けて……。

「おいっ、大丈夫か?」

半分目を閉じかけて、へたり込んでいた私はハッと我に帰る。

「猫田、おいしっかりしろ、猫田」

私、猫宮なんだけど名前間違ってる……ってこの声は。

私の肩を揺さぶるその人に目を見張った。

「一条……くん」
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