猫の初恋
「俺の首に手をまわしてつかまれ」

「あ、でもでも」

無理無理、そんなの恥ずかしくてできっこないよ。

「早くっ」

「う、うん」

「落ちたら危ないから早くしろって」

「あ……」

そう言われてようやく気がついた。

彼に睨まれるとついつい緊張してパニックになってしまってた。

だけど、私が落っこちて怪我をしないように注意してくれてるんだ。

「は、はい」

恥ずかしいなんて言ってる場合じゃないよね。

意を決して、ギュッと彼の首に縋り付いた。

あ、一条くん身体はガッシリしてるけど意外に首は細いんだ。

「ちょっ、もう少し力抜け」

「わあっ、ごめん」

「……」

強く抱きつきすぎたことに気がついてカーっと頭に血が昇る。

少し腕の力を緩めるけれど、さっきよりもずっと顔と顔が近い。

一条くんて綺麗な肌、透明感があって吹き出物ひとつない。

私があんまりジッと見ていたせいか、それに気づいた彼に軽く睨まれた。
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