猫の初恋
さも、こっち見るんじゃねーよブスって心の声が聞こえてきそうだったから
震え上がった。

それなのに、なんだか目が離せなくて困っちゃう。

どうしてなんだろう。

今だって彼の真剣な横顔に釘付けになってしまうんだ。

「もう少しだ」

「は、はあ」

なんのことだかわからなくて小首を傾げていたら、突然胸の奥がドクンッと重い音を立てた。

……えっ?

身体の中から明らかな異変を感じる。

こ、これは……ヤバい。

冷や汗が背中をつたう。

ガタリ。

彼は保健室の前で立ち止まり、横開きのドアを乱暴に足で蹴って開ける。

「先生、こいつ倒れてたから見てやって。すげー顔色が悪いから」

だけど、答える声はなくてシーンと静まり返っていた。

どうやら保健室の先生は不在みたい。

「あ、ありがとう一条くん、もう大丈夫。ちょっとベッドで休ませてもらうね」

早口で言ってぎこちなく笑った。
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