猫の初恋
もう一度、私の頭を撫でた彼は眩しそうに瞳を細める。

え……。

今のって、もしかして。

一条くんが笑ったの?しかもあんな優しい顔、見たことがない。

彼のことだから、尻尾を引っ張られたり高いところから突き落とされたりしてイジメられるのかとばかり思っていた。

ううん、でもまだ油断できない。

だって、彼は血も涙もない冷徹な不良だって有名なんだもん。

油断させておいて、何をされるかわからない。

警戒心を緩めてはいけないって思ったけど、彼の右手の甲を見てハッとした。

靴の跡がくっきりついて、赤くなっている。

さっき私のことを庇ってくれた時にできた怪我に違いない。

あんなに赤くなっているなんて、よほど痛かったろうな。

「おいで」

思いの外、優しい声をかけられたからおずおずと一歩前へ踏み出していた。

「おまえ可愛いな」

「ニャッ」

ドキンと心臓が跳ねる。

今、可愛いって言われた?
どっ、どうしょう。
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