猫の初恋
しかも運の悪いことに、お兄は毎週水曜日に友達と遊びに行ってしまい夜まで帰らない。

両親の帰りも遅いから、最悪の場合私がいないことに夜まで気づいてもらえないかもしれない。

「ニャウー」

悲しくてうなだれていると、ククッと笑われた。

「なんだ、おまえ言葉がわかるみたいだな」

まずいっ、怪しまれてる?

どうしたらいいか、わからなくて固まっていると。

「なわけないか」

彼はあっさりとそう言って笑う。

ホッ、よかったって胸を撫で下ろしていたら、首の下を優しく撫でられて気持ちよかった。

「ゴロゴロニャーン」

思わず甘えた声で鳴いてしまって、恥ずかしい。

私ったら、何やってるの。

早く彼から逃げないといけないのに、懐いてちゃいけないでしょ。

でもあんまり彼の態度が穏やかで優しいんだもん。

調子が狂っちゃうよ。

いつもは、あんなに冷たい表情で女子に対して無関心なのに。

そんなとろけそうな瞳で見つめられたら私、どうしたらいいかわからない。

でも、一条くんのことを信じてもいいのかな?

このままお兄の教室に辿り着けるか会えるかどうかさえも自信がないし。

「安心しな、おまえを見捨てたりしないから」

そう言って今度は優しく頭を撫でてくれたから、目を閉じておとなしくしていた。

「明日の朝、また学校に連れてきてやるから、そしたらお前の親を一緒に探そうな」

子供に言い聞かせるような口調。

気がつけば私は素直にコクンと頷いていたんだ。
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