猫の初恋
クールな一条くんのこんな笑顔をひとりじめしちゃってほんとにいいんだろうか。

そんなに愛おしそうに見つめないで。

ミルクにがっついてるのが急に恥ずかしくなっちゃう。

「どうした?もっと飲めよ」

だから、見られてたら恥ずかしいんだってば。

真正面から見られないようにちょっとだけ移動した。

「可愛い……」

彼は目尻を下げてうっとりしたようにつぶやく。

そしてまた背中を指で撫でられた。

ひっ、可愛いだなんてまたそんな簡単に言わないで。

猫の自分が言われているんだってわかっているのに、胸がドキドキしちゃって困っちゃうよ。

でも、ほんとの猫だったら可愛いと言われたからって反応はしないはず。

だから、知らん顔してミルクをのんだ。

ふぅ、怪しまれないように振る舞うのも大変。

「そうだ、おまえの名前をつけてやるよ」

彼は少し考えてから私を覗きこんできた。
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