猫の初恋
その夜、猫の私は一条くんの隣で眠っていた。

彼はいつも仏壇のある和室のすぐとなりの部屋に布団を敷いて寝ているみたい。

さっき彼は家出をしているって話をしていたけど、確かにその部屋には大きめなボストンバックがあった。

彼の着替えや教科書なんかもそこに入れているみたい。

それは、彼の覚悟みたいなものを感じさせる。

隣に家があるとはいえ、彼なりに自分の置かれた立場みたいなものと闘っているような気がしたんだ。

本当の彼を知れば知るほど、学校だけではわからないなって思う。

もしかしたら、みんないろんな顔を持っているんだろうか。

私が、誰にも言えない秘密があるのと同じように。

こんな風に誰かのプライベートに接することなんて今まで一度もなかったから、知らなかっただけで。

みんな簡単に口に出せない悩みや秘密を抱えてるのかなって思った。


私の寝床は小さなバスケットの中にタオルをくるんだベッド。
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