猫の初恋
おかあさん!
会いたかったよぅ。

「ニャー」

母と身体を寄せ合うように抱き合った。

「無事でよかったわ、すず。匂いを辿ってここに辿り着いたの」

母はヒソヒソ声で話しかけてきた。

大人のあやかし猫の母は、私とは違い猫の姿でも人間の会話ができる。

「さあ、帰りましょう」

私は母に擦り寄って甘えながらコクンと頷いた。

あ、でも……。

私は隣の部屋で何も知らずにスヤスヤ眠る一条くんの方へ顔を向ける。

彼に黙ってこのままいなくなっていいのかな。

「すず、もうこれ以上彼に関わってはいけないわ」

私の心の中を見透かしたように母は言った。

「……」

「私たちの正体がバレたらもうこの街にはいられなくなるんだよ」

普段は優しい母もあやかしの掟にはすこぶる厳しいんだ。

母からの言いつけには絶対逆らえない。
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