猫の初恋
昨日は私の顔を覗きこんであんなに優しく笑ってくれたけど。

それは猫のバニラに対してだから。

私にはあんな顔は絶対見せてくれないよね。

「……」

あれ、なんだろうこの気持ち。

私ちょっぴり、寂しいって感じてる?

ううん、そんな風に思うなんておかしいよね。

母には関わらないように釘を刺されたけど、もともと私と彼に接点なんてないし友達ってわけでもない。

彼にしたって、私に対しては関心はなさそうだし。

これまで通り過ごしていれば深く関わることなんてないか。

「千颯、飯食った?」

友達の木下くんから昼食に誘われる一条くん。

「まだ」

「じゃあ食堂行こうぜ」

「おう」

木下くんと一緒に教室を出ていく後ろ姿が見えた。

彼の様子はとりたてておかしいところもなくいつも通りみたい。

遅刻はしてきたものの彼がバニラのことを気に病んでいる様子じゃなかったみたいでホッとした。
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