猫の初恋
「頼む、教えてくれ」

彼の切羽詰まったような真剣な表情を見たら、私はその場で動けなくなる。

「じゃあ、とにかくあの猫は無事なんだな?」

念押しするように尋ねられた。

「うんもちろん」

「元気なのか?」

「凄く元気」

「そうか、ならよかった」

彼はようやくホッとしたように息をついた。

一条くんに少しは安心してもらえたみたいでよかった。

そう思っていたら背後に気配が。

「すず、何してるんだ?」

「え、お兄?」

声をかけられてびっくりして振り返ると兄がすぐ後ろにいた。

気配を消して猫みたいにそっと近づいてきたのかも。

相変わらずの明るい笑顔だけど眉毛がヒクヒクしてるし目が笑っていない。

兄はいきなり一条くんに話しかける。 

「キミ、随分うちの妹と仲良くしてくれてるみたいだね」

私はハッとして一条くんの手を払いのける。

「そ、そんなんじゃないから。ちょっとこっちにきて」
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