猫の初恋
兄がおかしな誤解をしているみたいで恥ずかしかったから、引きずってここから離れようとしたけど……。

「君、名前はなんて言ったかな?」

兄はなおも一条くんに話しかけた。

「一条だけど」

「下の名前は?」

「千颯」

「一条千颯くんか、オッケー。一条くん、これから先はもう妹には近づかないでくれるかな?」

「なんだよ、いきなり」

怪訝そうに尋ねる一条くんに、不敵な笑みで返す兄。

「僕の言うことを聞かないと、怖い目にあうかもしれないよ。イチジョウチハヤくん」

「……っ」

その時、兄の瞳の色が黄色に変化した。

直後、一条くんの顔から表情がサッと消えてしまった。

「いいね。白い子猫のことは忘れるんだ」

「白猫……忘れる?」

「わかったね?わかったら自分の教室に帰っていいよ」

「……わかった」

一条くんは感情の無い人形みたいな顔で頷いて、ゆっくりとその場からいなくなった。

「ちょっと、お兄。一条くんに何をしたの?」
< 80 / 160 >

この作品をシェア

pagetop