猫の初恋
慌てて尋ねると、兄は得意げににやりと笑う。

「ちょっとした暗示をかけただけだよ。単純で素直な奴なら一生、術が解けないはずだ。意志が強いやつは半年間くらいで解いてしまうけど、その時になって思い出したところで興味もなくなってるだろ」

兄は他人の思考に介入して操ることができ、記憶の一部を消す能力があるんだった。

なるほど、その手があったのか。

ちょっと強引だけど、これも仕方がないのかもしれないな。

だって、私うまく嘘をつき続ける自信なんてないもん。

「いいか、すず。あいつには2度と関わるんじゃないぞ」

兄にしては珍しく強めの口調。

「わ、わかってるよ」

「ほんとか?もう好きになってたりして」

目を細めて冷やかされたから、ムッとした。

「違うもん、絶対そんなことないから」

「イケメンだったしな。あれは女の子にモテそうだ」

「そんなんじゃないから」

「猫は面食いだからなー」

「もう」

頬を膨らませてプイっと顔を横に向けた。

「真剣な話、バレたらやばいんだから気を引き締めるんだぞ」
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