猫の初恋
ヒヤヒヤしながら、昇降口で外靴に履き替えて正門まで一緒に無言で歩いた。

駅に向かう曲がり角まで来たところで立ち止まって口を開いた。

「じゃあ、私こっちだから」

「俺も同じ」

「へ?一条くんは徒歩通学でしょ?私は電車だから」

「そうだけど、猫宮を家まで送っていきたいから。

「へ?」

ぽかんとしていたら、肩をそっと押され促された。

「さ、いこうぜ」

「え、えーと。家まで送ってくれるってことは」

嫌な予感がして立ち止まる。

「バニラに会わせてほしい」

彼は照れくさそうにそう言って、駅に向かって歩き出した。

なんだやっぱりそれが目的なんだ。

いきなり、一緒に帰りたいだなんておかしいと思ったよ。

私自身に興味があるわけなんてないもんね。

無駄にドキドキしちゃったよ。

でもどうしよう。彼が家にくるなんて全く想定外。

こんなとき、兄みたいにパパっと猫に変身出来たら何とかなるのかもしれないけど。
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