猫の初恋
蛇のようなねちっこい視線を向けられて背筋がぞっとした。

「番長、またおまえかよ。しつけーな」

一条くんは苛立ったようにすごむ。

「彼女なのかって聞いてんだよ」

「そうじゃない。ただのクラスメイトだ」

そうだよ、私たちはただのクラスメイト。彼女と間違われるなんてちょっとびっくりした。

「ほんとかよ?」

「こいつは関係ない、手を出すな」

私を庇うように背中に隠す一条くん。

番長の値踏みするような視線が怖くて一条くんの腕にすがりついた。

「ふーん、じゃあおまえがおとなしく俺たちについてくるんなら女は見逃してやるよ」

「わかった、どこにでも連れて行け。ただしこいつには構うな」

番長の卑劣な提案に一条くんがあっさり応じてしまった。

どうして?

私を助けるために、自分を差し出そうとするなんて……。

そんなの、絶対に駄目。

「一条くん、やめて。私のことはいいから逃げてよ」

「駄目だ、早く行け」

彼は私を鋭く睨んで肩を押してきた。

どうあっても、彼は私だけを逃がそうとしているんだ。
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