孤独なお嬢様は、孤独な王子様に拐われる。




「皆様。本日はお集まりいただき、誠にありがとうございます。皆様の支えあってこその我が社のブランドです」



息が詰まりそうだ。
なにも中身がない形だけの集まり。

私はこの光景を見るたびに、そんなことを思う。



「では本日は私の娘、乃々から皆様へのご挨拶と乾杯の言葉を」



その数十分後、私はこっぴどくお母さんから叱られることに。


連れられた控え室。

私は内心、やってやったという気持ちでいっぱいだった。



「聞いているの!?いい加減にしなさいよ乃々!!どうしてあたしにそこまで恥をかかせるのよ……!!」



こんな平日の夜にお集まりいただき、わざわざありがとうございます。

外ではサラリーマンさんや学生たちが満員電車に揺られるなか、こんなにも呑気なことができるのは皆様くらいですね。


それでは、素敵な夜を────、


私の渾身の挨拶だった。



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