孤独なお嬢様は、孤独な王子様に拐われる。
私に何も言い返させない空気があった。
これだけはと譲れないものは、誰にとってもひとつくらいはあるものだ。
だったらその腕で、海真くんは誰を守りたいんだろう。
同時にきれいな音色を奏でることができる、その手で。
「喧嘩とか、いっぱいしてるの…?」
「…前はしてた。でも今はそれほど」
知らないひとになっちゃったみたい。
正直いうと、海真くんの学校のような子たちとは関わって欲しくない。
私だけが知る海真くんでいればいいって、そんなの自己中にも程があるよね。
「オジョーサマには分かんなくていいよ。こればっかりは」
「…なあに、それ」
「……物理的なことでしか解決できない世界もあるってこと」
顔がちゃんと見えないことも厄介だ。
声だけだと、自分が受け取った以上に冷たい言葉にも聞こえてしまう。