孤独なお嬢様は、孤独な王子様に拐われる。
「……いまのは、ただの気の迷い」
「っ、」
「とか言われたらさ。信じられないってより、信じたくないだろ」
信じるとか信じないとかじゃない。
どうしてって、まずは怒りのようなものが湧く。
同じことなんだ。
彼は今、私に理解させようとしたんだ。
「なんか…嫌じゃん、それ」
うん。嫌だ。
すごくすごく嫌で、悲しくなる。
気の迷いなんて言わないで。
そうじゃないって、はっきりした理由をちょうだい。
じゃないと納得なんかできないよ。
「……婚約者が、いるの」
ぎゅっと、海真くんの服を掴んで見上げる。
「6歳年上のひとで…、私はそんなことしたくないのに…もう、決められてて、」
父親は物心ついたときからずっといない。
その代わりお母さんは仕事に明け暮れているキャリアウーマンだ。
父親がいなくても、そこに関してだけは昔から支障がなかった。
だからお母さん。
私がお母さんのことを嫌いなんじゃない。
きっと私のことを嫌っているのが、お母さんなの。
「なんにも、なんにも……、自分では選べない人生…だよ」
気持ちを吐き出したことがなかった。
どうせ聞いてくれないんだからって、いつも諦めていた。