孤独なお嬢様は、孤独な王子様に拐われる。
だから初めてだったんだよ。
あの日、屋上で、“死にたい”っておもいっきり泣いたのは。
「私が欲しいものは……お金じゃない…っ」
「なら、おれといっしょに逃げる?」
「……え…」
「なんもないけど。おれ、本当になにも…持ってないけどね。今日みたいに無理やり拐っていいなら、そんな姑息で汚いやり方していいなら………するよ」
そう言って。
この先なにがあろうと、ぜったい忘れることができないキスが降ってきた。
「…ずっとののちゃんのことばっか考えてた。……会いたかった」
涙がひとつひとつこぼれるぶんだけ、それ以上の回数が落ちてくる。
私も会いたかった。
いつもいつも海真くんのことばっかり考えていた。
おなじで、うれしい。
「まだ…心がね、寒いの。海真くん」
「……あっためていーの?おれが」
私の確かな返事を聞いてから覆い被さって、ギシッと音を立てたベッド。
彼の腕を染める傷痕に、慣れないなかでも唇をつけてみる。
背伸びをするわけじゃない。
そんな器用なこと、できないよ。
「…脱がすよ?」
「っ…、うん…」
わからないなかでお互いに探り探り確かめあって、必死だった。
でもこれがきっと、愛しいって気持ちなんだって、それだけは────。