孤独なお嬢様は、孤独な王子様に拐われる。
「ごめん、でも1コ言うなら米欲しい」
「そ、そうだよね…、炊飯器……は」
「ごめんなさい今週中には揃えます」
「…ふふっ」
調理器具は揃えたけれど、思った以上の荷物の多さに炊飯器とオーブンレンジは後日ということになった。
やっぱり肉じゃがにはご飯だよね…。
ごめんね海真くん。
「んっ…」
「…ありがと。ののちゃん」
「……うん」
私もありがとう。
そう言う前に、もう1度重なった。
唇が離れると、お互いにどちらからともなく抱きしめあう。
だいすき。
この人がいれば何もいらないくらい、なにも怖くないくらい、大好き。
「だぁから、お試しでもいいんだってば!お願いだよシュウさん!」
「俺はガキには興味ない」
「ガキ…かあ。女に興味ないくせに」
「…なんだその語弊がありすぎる言い方」
「さすがにそうも思ってくるわ!だって今まであたしの誘いに乗ってくれたことあった!?ほんのちょっとでも振り向いてくれたことっ、あった…!?」
「ない」
「そう!ないの!!せめて迷えぇぇっ」
そしてふたり暮らしは着々と始まって、数日前から私たちが働くバーには新しい顔が増えていた。
その女性は必ずカウンター席に座り、海真くんいわくカウンター内で作業をしている店長さんを口説いている……らしい。