孤独なお嬢様は、孤独な王子様に拐われる。
「だれと一緒にいるんだ…!もしや男か!?いいや、きみに限ってそんなことは…」
「痛い…っ、やめてください…!」
「だったら帰るぞ今すぐに…!どうしてそんなになってしまったんだ乃々!!これじゃあ僕の顔だって───」
「離せよ」
そこで自由が戻った。
顔を見るまでもなく、声を聞いただけで安心に包まれる。
「っ…、だ、だれだお前は……!どこの大学の出だっ、どこの会社で年収はいくらなんだ…!僕の婚約者に馴れ馴れしく触るなっ!───あっ、おい…っ、待て……!」
情報は何も教えないほうがいい。
少しでも勘づかれることもダメ。
どこでどう近づいてくるか分からない。
家の場所はもちろん、バーの場所も。
だから彼は私の腕を引いて、お店とは反対方向へと走ったんだ。
「かいまくん…っ」
「…大丈夫。もう来てない。見るからに走れなさそうな奴だったし、ここは車も入ってこれないから」
身を潜めた場所は見知らぬビルとビルのあいだにある空き地。
ゴミステーションの物陰に隠れるように、海真くんの腕のなか。