孤独なお嬢様は、孤独な王子様に拐われる。




「公共の場であんなことするなんて、不審者かと思いましたよ。危うく警察に通報するところでした」


『はは、すみません。久しぶりに愛しの婚約者に会えたのでつい感情が高ぶってしまって。ぜひお詫びと言ってはなんですが、どうぞ近いうちに我が家へ案内したいと思いましてね』



財前さんの家へ……?
一体なんのつもりなの。

まさかそこで、なにか海真くんに手を加える気なんじゃ…。



『ぜひランチでもいかがでしょう。もちろん、乃々も一緒に』



ぜったいに行ってはダメ。

こんなの誘き寄せるための嘘。



『僕も婚約者のお友達とは良好な関係を築いていきたいと思っているんです。それに、両家のために僕も事を荒立てたくはないですから。…ねえ、乃々』



脅しだ。

お母さんや財前家に報告されたくなかったら、海真くんを連れて家にこい───と。



「…わかりました、行きます。いつですか?」


「っ!海真くんダメ……!」


『乃々。僕も婚約者として君の大切なお友達に挨拶をしておきたいんだよ』



婚約者って、何度その言葉を強調するの。

わざとらしいったらない。



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