孤独なお嬢様は、孤独な王子様に拐われる。
海真side




「あれ?奥さんを迎えに行ったんじゃなかったの?」



ひとりで戻ってきたおれを見て首を傾げたおばさんは、すでに定位置に座ってはアルコールを嗜(たしな)んでいた。



「はい店長、これ頼まれてたやつ。ののちゃんはなんか……学校の課題を急に思い出したっぽくてごめんなさいって伝言ね」



そんな適当を店長にも言っておく。

彼女は別に正式に雇われているわけでもないため、そこは自由でもある。


この街のどこかにまだあいつはいるかもしれないし、この店にたまたま来る可能性だって。


だから万が一を見越して、おれはついさっきののちゃんをアパートに置いてきたばかりだった。



「うっそ。雨降ってきた」



窓の外に視線を移したおばさんこと玖未さんが、うげえっと顔を渋らせる。

その顔から傘を持っていないことが分かった。



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