孤独なお嬢様は、孤独な王子様に拐われる。
それをいつにするか、というだけの問題だ。
私が毎日毎日こんなことを思って過ごしているのも知らないんだ、みんな。
せめて見た目が良ければ妥協できたかもしれないけれど、財前 一朗太という男はただ金を持っているだけのお坊っちゃんなのだ。
ずんぐりむっくりな体型は、近づくと顔を歪めたくなる酸味づよい匂いがする。
「ねえ、乃々」
脇の下から手を滑り込ませてくるみたく、私の身体に触れてくる。
「っ、…やめてください。汗、かいているので」
「そんなこと気にしないよ。いずれは夫婦になるんだから、ぜんぶ受け入れてこそじゃないか」
私じゃなく、あなたが汗をかいているの。
私は彼のことをそんなふうにしか見ることができないけれど、どうにも財前さんは逆らしいのだ。
初めて会ったときから、私のルックスは悠々と彼のなかでクリアしていたらしい。
好きなタイプだと、興奮ぎみにつぶやかれた声は今でも忘れられない。