孤独なお嬢様は、孤独な王子様に拐われる。
「海色。あたしもうね、ハタチになっちゃったわ。…いいねえ、あんたはずっと18歳で」
日本酒に話しかける玖未さんは、姉ちゃんの親友だったひと。
おれも姉ちゃんも、お互い親戚には恵まれなかった。
おれは邪魔者扱いをされつづけ、とうとう中学3年から家を追い出された。
家賃も安い今のアパートを用意されて、生活費は出すからと条件つきで。
高校2年生になった今、そんな支援はとうとうなくなった。
『海真…、少しでいいから、海真のアパートで生活させてくれないかな…?』
『え、別にいいけど。なんかあったの?』
『…なんていうか気分?じつは学校あまり楽しくなくてさ、行きたくないんだよね…。親戚にも……いろいろ言われるの嫌だし』
一時期、いっしょに暮らしていた。
でもおれは手遅れになるまで知らなかったんだ。
学校に問題があったのではなく、実際は引き取られた親戚の家で酷(むご)すぎる扱いを受けつづけていたことなんて。
父親と同い歳くらいの親戚の男から、性暴行を加えられていたことなんて。
それから迎えにきた親戚の男に姉を引き渡してしまったことが───すべての失敗だった。