孤独なお嬢様は、孤独な王子様に拐われる。
「ーーー…、ーーー、……海真!!」
「っ、……はあ、……っ、はあ、」
無理やり中断させるかのごとく、おれの腕を鍵盤から離れさせた姉の親友。
「……こんな日なんだから、もっと穏やかな曲にしてよ」
「………ごめん」
助けられなくてごめん。
なんにも分かってやれなくて、ごめん。
あんな男のもとにまた姉ちゃんを帰しちゃって、本当にごめん。
「…ののちゃんさ。……死のうとしてたんだ」
「え…?」
「このビルから飛び降りようとしてた。…初めて会ったとき」
重なったのは、ほんのちょっと。
だっておれは姉ちゃんのその瞬間を見てないから。
想像でしかなかった。
「ああこの子本気だ、って思ったよ」
「あんたが……助けたの?」
「…助けたのかなあ。助けたってより、時間を延ばしたってだけかもしんない」
助けたい、ってよりは。
理解したい、ってほうが強かった。
あとは本当に勘弁してくれって感じだった。
2度は見たくない。
骨が砕けて身体が切断されて、顔が潰れている遺体だなんて。
「でもそのあと、死にたいって言いながら泣いたんだののちゃん。おれには……どうしても“生きたい”に聞こえて仕方なかった」