孤独なお嬢様は、孤独な王子様に拐われる。




心の叫び、だったんだろうな。

おれがピアノの音で表現するように、彼女は泣くことで表現したんだ。


それをさせてやれば良かったんだ、おれも姉ちゃんに。



「そんで気づいたら……おれが誰よりも愛してる女の子になってた」



このままずっといっしょに暮らせたら最高だなって思う。

流れるまま結婚してて、流れるままおれの奥さんになってて、子供が生まれてて。


なんて未来がいつの間にか来てないかなって。



「まあ……セレブな婚約者がいるみたいなんだけど」


「……え。なにそれ」


「でね、おれは今週末そいつを殴ってくんの」


「…は?まって、やばくない?あたしらみたいな庶民は金持ちだけは敵に回しちゃダメだよ海真」


「へーき。おれ、ののちゃんひとりなら抱えて逃げられるから。それに相手の男だって……自分の足で走ったこともないような奴だった」



大事なものは身に付けられる程度でいい。

金も家もいらないよ。
そんなものはあとからどうにでもなる。


ピアノだって必須ではない。

どこかにストリートピアノでも置かれていれば、おれはいつだって弾くことができる。


おれには、ののちゃんさえあればいい。



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