孤独なお嬢様は、孤独な王子様に拐われる。
「大丈夫。上級国民の格の違いってやつ、思う存分見せつけられるつもりだからおれ」
「…そんなの……嫌」
「でも、おれにはののちゃんがいるでしょ?」
それだけが自分にとっての強烈で最強な自信なのだと、揺れた私の瞳に笑いかけてくる。
「行くよ、オジョーサマ」
私はきっと、こんなふうにされるのがいちばんいいんだと思う。
大事なところでいつもいつも躊躇ってしまうから、強引にでも引っぱってくれたほうが。
そうしてくれる海真くんさえいれば。
「海真!」
バーを出たところで、呼び止められる。
そこには玖未さんが想像以上に真剣な顔をしていた。
「気をつけなさいよ。乃々ちゃんを守ってやれるのは、あんただけなんだからね」
わかってる───と、目線だけで伝えた彼は私の腕を引いた。
街を歩けばすれ違う女の子たちは必ずと言っていいほど、振り返る。
みんな海真くんを見ていて、いいや、見惚れているんだ。
でも正直。
私はいつものあなたのほうが好きだな…。
ぎゅっと、海真くんの手を握り返した。