孤独なお嬢様は、孤独な王子様に拐われる。




「やあ、遅れてごめんよ。予定より仕事が長引いてしまってね」



待ち合わせ場所に5分ほど遅れてやってきた高級車。

こんな駅前を指定したのもわざと、わざわざ仕事が長引いたと言って遅れてやってきたのだってわざと。


注目されることを、あえてしている。



「いいえ。ふたりで話す時間は楽しいので、まったく」


「…お友達は後ろに乗ってくれるかい。乃々はいつもの席。おっといけない、きみが好きなミルクティーを用意しておくのをつい忘れてしまったよ」



助手席が勝手に開けられる。


私と出かけるときは必ず用意されているミルクティーの話題をいちいち出したのだって、わざとだ。


べつに好きじゃない。

ただいつも決まって差し出してくるから、私は飲んでいただけ。



「お友達。きみはドアの開け方、わかるかい?」


「…財前さん、」



海真くんを馬鹿にしないでくださいと、今なら言ってしまえそうだった。

けれどそこで被せるようにこんなことを言ってきたのは海真くんだ。



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