孤独なお嬢様は、孤独な王子様に拐われる。
残念ながら財前さんの小さな小さな嫌がらせは、海真くんにとっては簡単にかわしてしまえるものだった。
どうだ、と得意げに笑ってあげたくなる。
海真くんは確かに抱えている気持ちはあるかもしれないけれど、本気で楽しんでもいる。
本気でこの機会を堪能しようともしているんだ。
「そういえば今日使われている日本茶は特上のものでね。僕も普段からわざわざ取り寄せているんだ。…ぜひ、飲んでみて欲しい」
財前さんといっしょに食べたご飯のなかで、初めて味が感じられた。
それは目の前に何よりも大好きな男の子がいるからで、私はずっと前だけを見ていた。
初めて食べたものは「初めて食べた」と素直にいい、味がよく分からないものは「よく分からない」と言う。
彼の素直さは私に笑顔と安心を与えてしまうんだから、海真くんは本当にすごい。
「お茶……」
「ほら、ふたりとも食事ばかりに気を取られて飲んでいないみたいだ。和食はお茶にもこだわっているんだよ」