孤独なお嬢様は、孤独な王子様に拐われる。




残念ながら財前さんの小さな小さな嫌がらせは、海真くんにとっては簡単にかわしてしまえるものだった。


どうだ、と得意げに笑ってあげたくなる。


海真くんは確かに抱えている気持ちはあるかもしれないけれど、本気で楽しんでもいる。

本気でこの機会を堪能しようともしているんだ。



「そういえば今日使われている日本茶は特上のものでね。僕も普段からわざわざ取り寄せているんだ。…ぜひ、飲んでみて欲しい」



財前さんといっしょに食べたご飯のなかで、初めて味が感じられた。

それは目の前に何よりも大好きな男の子がいるからで、私はずっと前だけを見ていた。


初めて食べたものは「初めて食べた」と素直にいい、味がよく分からないものは「よく分からない」と言う。


彼の素直さは私に笑顔と安心を与えてしまうんだから、海真くんは本当にすごい。



「お茶……」


「ほら、ふたりとも食事ばかりに気を取られて飲んでいないみたいだ。和食はお茶にもこだわっているんだよ」



< 145 / 335 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop