孤独なお嬢様は、孤独な王子様に拐われる。
「……海真くん、ぜったい飲んじゃダメ」
気づけばつぶやいてしまっていた。
また婚約者は爆発して怒ってくるかもしれないけれど、それで済むならなんとでも。
「たしか海真くんはお茶…、嫌いだったよね。無理して飲まなくていいよ、お水を頼むから」
なんとか理由を作らなくちゃ。
彼がお茶を飲まなくて済む理由を。
「乃々さん。あなたは本当に教育がなっていないのね」
「…え?」
「先ほどから見ていれば、婚約者よりもずっとお友達を優先させて。どれだけ一朗太くんに恥をかかせるつもりなの?」
それまで穏やかに食事を楽しんでいた留美子さんが、刺すような目を私に向けてきた。
飲め、いいから飲め───と、無言の何かが迫ってくる。
「そうやってみんなにいい顔をしているの?それともお友達に好かれるために必死なのかしら?…ふっ、どちらにせよとんだアバズレね」
「………飲み、ます」