孤独なお嬢様は、孤独な王子様に拐われる。
…………おれ、また守れないのかな。
本当であれば守れたものを守れないのだけは、もう御免なんだよ。
「…………あ…、」
睡魔と意識の狭間で、おれは壁に飾ってあったとあるCDを見つける。
………まさかこんなところで目にすることになるなんて。
砂浜にポツンと置かれたピアノの上、白シャツを着た男が頬を寄せているジャケット写真を、おれはよく知っていた。
「………とう……さん…」
「え…?」
おれの父親だ。
それは間違いなく、かつてピアニストだった父親のアルバム。
そこまで有名ではないが母もピアニストで、親戚に引き取られる前の薄い薄い記憶のなかで家族たちが笑っている。
そっか……、おれ、家族みんな死んでんだ。
おれだけを残してみんな死んじゃってさ。
(なにが残ってんだろ……おれ)
思いつくとすれば、ピアノと名前くらいだ。
ピアノだけはずっと続けていこうって、親戚に引き取られる前に姉ちゃんと約束した。
どんな形だとしてもいい。
それが両親の形見でもあるからって。