孤独なお嬢様は、孤独な王子様に拐われる。
「っ…、はあ……っ」
カンカンカンと、ひとつのビルの非常階段をかけ上がる。
目に入ったなかでいちばん高そうだったからという、それだけの理由。
高ければいーの。
すこしの希望も持たせないくらい、高ければ。
うまく飛ぶことができるだろうから。
「………、」
けっこう高いんだな、というよりは。
あんなにも明るかったというのに、見下ろすと闇が広がっていることに思わず息を飲んでしまった。
フェンスに足をかけて、またがって、フェンスの先。
ギリギリに立ってから足が震え出した。
「……これで……いいの」
スマートフォンも財布も置いてきた。
いらないと思って、ぜんぶ置いてきた。
今頃ホテルではお母さんは発狂してるかもしれないし、あの婚約者はずっと控え室で待っているのかもしれない。
私がこんなことをしようとしてるだなんて、想像もしないで。